ザザイズム

書くことは命の洗濯。日常で考えたことや国内外旅行記などつづっています。

あの日のメキシカン・タコスをもう一度

今まで20数カ国行った国の中で、いちばん美味しかったものは何か。あえて挙げるならメキシコで食べたタコス。

日本のメキシコ料理店でタコスを食べたこともあるけれど、現地の味には敵わない。きっと味どうこうというより、あの時あの場所のタコスであればこその美味しさだったのだろう。メキシコにたどり着くまでの過酷な日々からタコスを味わうまで、そのすべての過程があの美味しさを形作っていた。

海外旅行の洗礼、食あたり

メキシコに行ったのは2018年。大学の卒業旅行として、ペルー・ボリビア・メキシコの中南米3ヶ国を巡った。

ペルーではリャマと一緒にマチュピチュを拝み。

ボリビアではウユニ塩湖の星空に包まれた。


概ね順調な旅だった。けれど、ボリビア滞在の後半に事件が起きた。ウユニの食堂で食べたフライドチキンに当たった。

その日はウユニから首都ラパスに夜行バスで向かう日。最初は胃もたれから始まった。ストライキで道路が閉鎖されており、バス乗り場まで3km歩かされた。カメラや三脚で12kgほどの荷物を抱えてひたすら歩き、体調の悪さを感じる余地もなかった。

バスに乗り込んだ途端に気分が悪くなった。バスの狭いトイレに駆け込み、胃が空っぽになるまで吐いた。席に戻っても胃が酷く痛い。足元のペットボトルを取って水を飲みたいけれど、そんな動作すらできない。眠れようもなく、地獄のような数時間を過ごし。ようやくラパスに着いた。宿に着いた途端に再び吐き、お腹の調子も悪くなりトイレに駆け込んだ。

そんなズタボロの状態でまる1日寝込んだ。奇跡的に1日休んだだけで回復したものの、食欲は戻らず。少しばかりの果物ばかりを食べて過ごす日々が続いた。

それからボリビアのジャングル地帯を巡った後、メキシコに降り立った。



感動のメキシカン・タコス

メキシコシティは大都会だった。直前までいたボリビアは南米の最貧国であったこともあり、ギャップがすさまじかった。

宿の近くのタコス屋に入る。「Los Tacos」。タコス屋としてこれ以上ないほどわかりやすい直球の店名。

メキシコシティの中心地、ソカロ広場からもほど近い立地。店内のテーブル席はほぼ埋まっていた。

真っ青なプラスチックの皿にタコスが5つ盛られてきた。

日本でタコスといえば、大きくて硬いトルティーヤに挟まって出てくるものが一般的だけど、これはアメリカ式。メキシコ式のタコスは小さくて柔らかいトルティーヤに乗って出てくる。

中でもこのパストールというタコスには、ケバブのような豚肉の切り落としに、玉ねぎ、パイナップル、パクチーが付いてくる。そこに辛いサルサソースやライムをかけていただく。

個性豊かな香味類を全載せしたかのごとき大集合ぶり。

これがとてつもなく美味しかった。辛い、すっぱい、甘い、ジューシー、香ばしい、全部が一度に押し寄せる。この世にあらん限りの味の要素が全部詰まっているのではないかと思うほどで。それらが破綻せず調和している。そんな刺激はここ1週間近くまったく受け付けられなかった風味ばかりで。

しかも当時のレートで約230円というお手頃価格。あまりにも幸せのかたまりでしかなかった。



メキシコに魅せられて

その後もメキシコに10日間ほど滞在した。大いに気に入った。メキシコ料理は何を食べても美味しかった。カラッとした最高の天気の下、ミチェラーダというビールに塩とライムを加えたビアカクテルを飲む昼下がり。そんな幸せを知ってしまった。



カラフルな町並み、美しい陶器やアートに魅せられ。



遺跡や考古学博物館では歴史の豊かさに圧倒された。

10日間ではまったく足りなかった。まだまだ行ってみたい場所がいくらでもある。東側のカンクンやその周辺はまったく行けていない。

何より、11月の死者の日のお祭りに行ってみたい。日本でいうお盆にあたるイベントだけどひたすら明るく 、カラフルなドクロが街中にあふれる日。ふだんから色に溢れた国がさらに鮮やかに楽しめるはず。絶対に楽しい。


旅の「文脈」

行きたい国リストを作るといくらでも候補が湧いてくる。いざ旅に出ようとすると、どうしても行ったことのない国を優先してしまう。行ったことのある国は優先順位が下がる。

それでもメキシコは燦然と輝く行きたい国リストの上位である。去年取れた3週間の休暇でもメキシコ行きを検討していた。もし死者の日の日程を取れたならメキシコを優先していただろう。



ただ、もう一度メキシコに行けたとして、たとえ同じ店に行っても、あの日のタコスを超えられるタコスは食べられないかもしれない。

旅には「文脈」がある。その直前に何をしていたかと現在とのギャップで、この瞬間をどう感じるかが大いに変わる。日本で何気なく食べられるチェーンのかけうどんだって、海外旅行で重たい脂っこい食事ばかりした後に食べるととてつもなく染み入る。そういう文脈が海外旅行にもある。あの日食べたタコスは、卒論を書き上げ、ペルーとボリビアを巡り、食あたりで苦しんだ日々を経た先にたどり着いた、あの一瞬でなくては成り立たない味だったのかもしれない。

それでも、メキシコのタコスに焦がれて仕方がない。そう思わせる魔力があの日のタコスにはあった。





今週のお題「行きたい国・行った国」より。








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