『三体Ⅱ 黒暗森林』を読んだ。本屋にも山積みになっていた中国SF小説。1作目でその世界観にすっかり魅せられ続刊を楽しみにしまくってました。根幹に関わるネタバレはなしで、感じたことをのんのんと書き留めていきます。
キテレツ未来ワールドへようこそ
前作は文革の時間軸から始まった一方で、本作は途中で時間軸が未来に飛ぶ。凄まじく技術発展した未来世界。一方、意外とアナログな部分がちらほら残っているなと思った。ここまで技術が進んでいるのにまだタッチというUIが必要なのかな、とか。全体の流れに比しては枝葉末節ではあるけれど、現代の発想が下地になっている割合の多さが少しだけ気になった。
前作は文革〜現代パートゆえに、むしろ今私の生きる現代と地続きで当たり前だった。その地続き感のリアルさに魅せられた。いっぽう、未来世界はもう想像力と設定の賜物で、なるほどこう来るのか〜と、共感とか地続き感を超えた別次元を期待していたように思う。とはいえ充分に奇想天外な別次元ではあったし、楽しめた。
科学哲学から頭脳戦へ
科学哲学ど真ん中の話題がメインになっていた前作と比べると、若干その色が薄れた。
哲学というよりは社会経済学的・軍事的な頭脳戦の様相を呈してきた。特に軍事モノをあまり読んだことがない身には慣れない雰囲気。そんなことが気にならないくらいの圧倒的ジェットコースター的展開の振り回しっぷりだった。
未来編に入ってからは頭脳戦が大加速。1巻からさらにパワーアップしたキレッキレの論理と論理のぶつかり合い。何度衝撃を受けたかわからない。いやちょっと待って待って、ストップストップ、休ませて、と一旦本を置いたことも幾度もあった。上巻はいくらか中だるみとも言えそうな展開ゆっくりパートが紛れていたけど、下巻はもうぶっ放しっぱなし。やめられない止まらない。
変わる世界、変わらないヒト
民衆の描写も印象に残った。猛烈な技術発展を遂げた世と、変わらない人々の行動原理との対比。やたらリアルに響いたのは、現代のコロナ禍にも通じるからかもしれない。
過去の歴史と科学技術を持っている我々でも、ウイルスをスマートに御しゆくことなど無理難題で、むしろあちらこちらに人間臭さが吹き出しまくっている。そんな状況を見ているからこそ、危機下の人間の行動描写にはリアルさを感じた。
漢字文化圏だからこそ楽しい
地味に特筆すべきは、情景描写の美しさ。冒頭部の蟻視点から始まるのとかズルい。冒頭部は英語版のサンプルで読んだことがあったのだけど、やっぱり情景描写は日本語で読んだほうが圧倒的に良い。もとが中国語だからか、漢字文化圏として描写感覚がかなり似通っている感じがする。日本人だからこそニヤリとできる部分もあって楽しめます。
次巻が待ち遠しい
唯一の難点は、読み終えたときの三体ロスがすごいこと。「続きが半端に終わって気になる」からではない。2巻はかなり綺麗に話がまとまっている。それより、終わってしまうのがシンプルに悲しい。ずっと読んでいる間中絶え間ないアトラクション続きだった世界が一息ついてしまったことに寂しさを覚える。1巻よりも長かった分よけいにそう感じるのかもしれない。
3巻の邦訳版は2021年春予定。しばらく生きる理由に据えています。
まだ未読の方はぜひ1巻と合わせて年末年始にでも読んでみてください。
- 作者:劉 慈欣
- 発売日: 2020/06/18
- メディア: Kindle版
- 作者:劉 慈欣
- 発売日: 2020/06/18
- メディア: Kindle版
今日はこのくらい。
◯今日の過去記事◯
www.zazaizumi.com