『三体』を読んだ。中国でシリーズ述べ2100万部を突破した超ヒットSF小説。
高い高い前評判のハードルに負けず劣らず、本当に面白かった。現実世界の科学と荒唐無稽なフィクションの境目すれすれをかっ飛ばしていくストーリー展開。ロケットのごとく成層圏よりさらに上、上、と突き抜けていく怒涛のスケール。ワクワクが止まらず、一気に読んだ。
ネタバレ無し、あらすじも無しで私の考えたこと中心にメモ。
科学の限界
「普遍的な科学法則などあり得るか?」本書の中で何度も形を変えて出る問いである。この問いだけ見てもそんなオカタイこと考えても面白くなさげに思われるかもしれないけれど、とんでもなく面白いのである。
中学くらいの頃、科学哲学にハマった。まさにこの手の問いを扱う分野。『哲学的な何か、あと科学とか』というサイトを読み漁った。かの有名な「シュレーディンガーの猫」もここで知った。
学校で習う科学や数学とはまるで違う世界がここにあった。科学も、数学も、この世の根幹を解き明かすことは原理的にできない。それが軽やかに鮮やかに指摘されていく様に興奮を覚えた。
私は「ここではないどこか」に惹かれがちな人間である。そんな私にとって、科学の限界というテーマはストライクの分野。科学ギリギリの世界を飛び交う哲学的議論や、時には宗教的でさえある議論の数々。それが根拠のないファンタジーではなく、現実の延長線として存在しうる可能性。とてつもなくエキサイティングに響いた。
『三体』も、この手の興奮をありありと思い起こさせてくれた。今まで寄って立つ世界が崩れ去り、まったく明後日の方向から別の何かがやってくる。そんな過程が、現実の科学的知識の延長と、とんでもない想像力で彩られている。面白がらずにはいられない。
翻訳書特有の読みにくさも全く感じられなかった。そうとう手が込んでいるもよう。
withnews.jp
翻訳小説もSFも普段しょっちゅうは読まない身でも違和感なし。科学周りの用語はまったく知らないとハードルが高いかもしれないけれど、作中でもそれなりに説明があり比較的優しそう。それでも『哲学的な何か、あと科学とか』あたりを事前に読んでおくと面白さが増すかもしれない。
現実がコロナ禍でSFめいてきた今だからこそ、こういう本が余計刺さるのかもしれない。「人類共通の敵」というワードが他人事ではない時代。社会のあり方が根幹からひっくり返りつつある今こそ、この怒涛のSF展開が他人事には感じられなかった。
中国という舞台もこのSFっぷりに独特の色彩を与えているように思う。現実の中国もいよいよSFめいてきている。そんな中国特有の価値観が散りばめられていて、異世界でありつつも地続き感がたまらない雰囲気を醸している。
第2巻の日本語版は2020年初夏に出版予定。いっそのこと、既刊の英訳版に手を出そうかすごく迷う。
1巻目を読んだ感じゴリゴリの科学専門用語と日本語でさえピンと来ないというか来させようとしていない突き抜けっぷりの理論に英語でついていけるかどうか。Kindleのサンプルを読んだ感じだと苦労しそう。けれどもチャレンジする価値はありそう。そう思えた。今日はこのくらい。
◯今日の過去記事◯